白雪姫の鏡のひみつ(未来常識リンク集)

【もう一つの世界】のリンク集

『妻が遺した奇跡』

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私の妻は2002年に天国に旅立ちました

10年の不妊治療の末にようやくお腹の中に新たないのちが宿りました

この10年間は、妻は体温計を見るたびに涙を流していました

新たないのちの告知は妻にとって人生最大の喜びだったでしょう

切迫早産の恐れがあるので妊娠後期から出産まで安静にしていました

定期的に通う産科で妻は女医の厳しい言葉にいつもビクビクしていました

私は毎回付き添う産科の廊下で、いく度となく「妻に優しい言葉をかけてほしい」と女医に懇願しようと思いながら躊躇していました

予定日の6週間前に骨盤位の診断が下り、妻は必死に胎児を反転させる運動をしました

妻の努力の甲斐なく、予定日より1月早い診察で、狭骨盤と骨盤位と臍帯巻絡のために、2日後に帝王切開による分娩が決まりました

水天宮に出かけ、無事な出産を祈念してきました

水天宮で撮ったのが妻の最期の穏やかな笑顔の写真になりました

出産当日は手術時間がわからず、私は迂闊にも昼食をとりに食堂に行き、妻は分娩室にひとり運ばれました

手を握って分娩を応援している光景をずっと想像していたのですが実際はかなり違っていました

肩すかしにあったような気分で分娩室の廊下で無事の出産を祈っていました

この世に姿を現したのは妻の希望通りに女の子でした

打ちひしがられてきた妻のこころを娘はいっぺんに解放してくれました

分娩室のランプが消えて、妻の無事な姿と初めて見るわが子を見て、生涯最高の幸せの瞬間を味わいました

縫合したばかりでまだ懐に抱けず、枕元に添い寝する娘に向けられた妻の眼差しが優しく娘を包んでいました

妻に翌日の再開を告げ、そそくさと立ち去った私は2つの会合を終え、深夜に帰宅すると夥しい数の留守電に戸惑いつつ、病院に向かいました

妻は既にICUにいて、すぐに面会はかなえられませんでした

不安の中で彷徨う義父母と私の母に事情を聞き、私の行動の弁解をするのみでした

携帯電話をまだ持っていなかったことを悔やみました

不織布の服と帽子とマスクを付け、人生初めてICUに入りました

ICUの控え室で一通り担当医師からの説明を受けました

妻は出産後初めてトイレに行った時に、そこで肺塞栓症を発症したとのことでした

今であれば真っ先に肺塞栓症を疑うようですが、当時は肺塞栓症の診断がつくまで1時間以上かかったようでした

いく本となく腕につながれた管と酸素マスクに覆われた妻は無言のまま必死に闘っていました

妻には出産のお礼と絶対に目を覚ますように伝え、ICUを後にしました

病院から家路までの間、必死に、朝の妻との会話を思い出すように頭の中を探っていました

起きている状況がまだ受け入れられないまま、真っ暗な浴室でうなだれながらシャワーで涙を流していました

妻からは娘の名前は「あき」にしたいという最期の願いを聴いていましたが、どのような漢字をあてたかも「あき」の由来もまだ聴いていませんでした

妻からのチョコをもらうはずの季節なので「秋」をあてたのではないことはわかっていました

ミルクを与える時に娘に「はる」と辛うじて呼ぶことができ、妻からのささやかな最期のプレゼントになりました

それからは私と妻の両親が病院に詰め、娘の授乳と妻の見舞いの日々を過ごしました

私は「もらい乳」の初乳を涙を流しながら娘に与えました

分けてもらえた「もらい乳」のこの上ないありがたさと「ママから直接与えられない母乳」の無念さが脳裏を往ったり来たりしていました

見舞いの度にICUで聴く妻の容態の説明に一喜一憂していました

願わくば1ミリでも快方に向かっている様子がうかがえる言葉を毎回求めていました

妻がICUで闘っている間、私は仕事に出かけながら、時間が許す限り「肺塞栓症」という聞き慣れない単語をパソコンで検索していました

妻の今の容態から快復する治療法を必死に探しました

私も妻と一緒に署名した手術同意書に書かれていた「肺塞栓症」という単語が私の脳裏からはすっかり抜け落ちていました

あの時にもっと「肺塞栓症」について注意深く医師に詰め寄っていれば肺塞栓症の予防を聞き出せたかも知れません

私の忘れることができない心の中の過失です

調べていく内に、肺塞栓症は治療法がほとんどなく、予防する以外に避ける方法がないことがわかりました

それと同時に、肺塞栓症には予防する方法があることがわかり、妻にはなぜ予防できなかったのかとを考えました

私が今妻にできることを考えました

肺塞栓症の治療法を探すこと

肺塞栓症の予防を拡めること

妻の二の舞いはもうなくすこと

私は決心しました

多くの人に働きかけ、肺塞栓症を知ってもらうこと、肺塞栓症の予防を普及すること、それと引き換えに肺塞栓症の治療法の情報を提供してもらうことの行動を起こすことにしました

肺塞栓症で亡くなる人は2002年当時は年間4000人でした

がんに比べるとはるかに小さな数です

肺塞栓症と診断されるのはその一部かもしれないということも知りました

しかし、大切な家族を失うとその家族も一生悲しみを抱えることになります

親族も友人も同様です

4000人という数が何倍もの悲しみになります

裁判による原因究明よりも、多くの方から賛同をいただきながら予防の普及を優先する選択をしました

要望書を作成し、ホームページを立ち上げ、訴えを始めました

時には娘をベビーカーに乗せて要望を訴えに出かけていきました

肺塞栓症は娘が元気な母に会えない人生を歩ませることになる怖い疾患です

親子で訴えたいという私のわがままで娘を同伴しました

新聞、テレビ、製薬会社、病院、専門医に面会し、私の主張が間違っていないかを確かめながら訴えました

市議会議員から始めて、県知事、国会議員、厚労大臣まで面会して訴えました

長年の懸案だった血栓症についてガイドラインもできあがるタイミングでした

エコノミークラス症候群」という目新しい言葉が多くの方に浸透しました

妻と同じ時期に肺塞栓症を発症した元Jリーガーの高原直泰さんが『病とフットボール』という本を出版したことも世の中に知れ渡るきっかけにもなりました

高原さんには後に「日本血栓症協会」の取材で対談しました

厚労大臣と面会することによって、肺塞栓症の予防が保険適用されることになりました

疾患の予防が保険適用になった初めてのケースだそうです

私は患者会として活動を始めました

肺塞栓症を発症した家族のお話を聴いたり、肺塞栓症の予防の普及活動をしました

病院を回り、肺塞栓症の予防活動を始めた経緯と家族としての想いを伝えしました

製薬会社では肺塞栓症の予防薬の意味を患者家族として述べました

患者会として患者会サミットに参加して、患者会同士の連携と患者側の取り組みの情報交換をしました

「患者の自立」について一年間議論を重ねたことは大きな糧になりました

肺塞栓症は病院内で起こる重篤化する重大疾患であるために肺塞栓症の予防は医療安全の一項目として扱われるようになりました

「医療安全共同行動」に参加して、患者側から医療安全の取り組みを始めました

医療従事者・製薬会社・患者が連携して医療の発展に貢献することの大切さを訴えました

その活動の間は、心の葛藤、家族関係、仕事、生活は決して順調ではなく、ぎりぎりのところで折り合いをつけてきました

天国の妻の応援が心の支えでした

患者家族としての経験から医療にはまだ必要なことが多くあると思います

患者家族の心のケアの問題です

医療機関は患者の病いを治すのが使命です

患者家族の心のケアは、患者家族が病いを発症して患者として受診しなければケアされることはありません

ICUで闘っている患者を家族が見舞う時の控えの場の環境の整備は病院の本来の業務から外れるのでなかなか改善はされていません

もし、患者が亡くなった場合の患者家族の心のケアは、病院からカウンセラーを紹介したり、自助グループにつないだりする仕組みはありません

病院が患者会と連携して患者のサポートをする仕組みもまだ十分に普及していません

これまでに医療者と患者会と製薬会社が協力して血栓症の予防の普及に貢献してきました

今後は別の目的、別の疾患、新たな人員で、その時代の要請に応じて、医療者と患者会と製薬会社が協力して、医療の発展に貢献することを期待しています

最後に、肺塞栓症の認知と予防の普及にこれまでご協力いただいた全ての方に感謝申し上げます

子どもの名前は仮名です

江原 幸一

 

 

皆さんへのお願い
このエッセイをもとに小説を書くことにしました。

最初は自費出版になるので、悩んだ末にクラウドファンディングを募ることにしました。

出版のあとはグリーフケア 、予防の普及、心の平和の活動につなげたいと思います。

今は何の約束もできません。

しかし、ご寄付をいただいた方にはなんらかの方法で恩返しをさせていただきます。

こころある方からのお心遣いで構いません。

ご協力に感謝申し上げます。

お名前と連絡先をお知らせいただければ幸いです。

furaijin@gmail.com

■プロフィール

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【お問合せ】

日本の子どもたちの未来を明るくするために発信しています。

講演会等はお問合せください。

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肺塞栓症深部静脈血栓症友の会

肺塞栓症の予防の普及の患者会

代表 江原 幸一